錦絵はカラ−印刷の技術としては独自の方法がとられている。木版印刷の応用であるから、現在の製版や印刷に用いられている機械類に代わって人の身体そのものがそうした働きをしている。錦絵の出来上がりの良し悪しや仕事の能率は職人の熟練度に左右されてしまう。当時、一人前の職人になるには、子供のうちからかなり厳しい修業をして、7〜8年かかったという。
<版 元>
絵の企画を立て、絵師に作画を依頼する。寛政の改革により、版下を組合に提出して、出版許可の検閲印が必要となった。
<絵 師>
今ではカラ−印刷を行う場合、必ず色のついたイラストなり、カラ−写真が原稿として用意されている。
錦絵の場合は、絵師が色のついた原画を描いたわけではない。まず、墨一色で絵柄の輪郭と文字を自分のイメ−ジ通りに薄い美濃紙に描いて行く。
出来上がったのが「版下絵」である。或いは単に「版下」という。浮世絵師のことを版下絵師と呼ぶのはこのためである。出来上がった一枚の版下を版元へ渡す。版元は検印済みの版下を彫師に渡す。彫師は版下を裏返しにして、板に貼り付け、墨の線を残して周囲をノミや彫刻刀を使って彫り下げる。画線部が残り、「版木」が出来あがる。これを主版(おもはん)という。
輪郭だけ彫られた版木を次に摺師に渡す。摺師は必要な枚数(色数)墨摺りして再び絵師に戻す。この墨摺りしたものを「校合摺(きょうごうずり)」という。絵師は一枚づつ色指定をする。これを「色差し」と称する。方法は必要個所を朱で塗りつぶし、指定色を書き込む。10色を摺り重ねるのであれば、版下は10枚出来る。絵師が色指定を終えた段階では、どんな色調の出来上がりになるのか誰もわからない。絵師の頭の中にのみイメ−ジされている。複数枚の版下(校合摺)はまた彫師へ戻され、いよいよ本番(製版・印刷)となる。
<彫 師>
(1)版下絵を裏返しにして、桜の版木に貼りつける。
(2)細かい部分は細い彫刻刀で彫り、荒い部分はノミで荒彫りする。
頭彫: |
一番重要な顔と髪そして手足の部分。最も熟練した技術が要求される。
彫師達は頭彫を任されることを至上の光栄としていた。 |
胴彫: |
人物の輪郭や背景。この胴彫が出来るまでに5年はかかったという。 |
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