BASHO
写真と文:上野信好


さらに芭蕉の句の次に出てくる曾良の「卯の花に……」の句は、500年という時間を超克して再現した義経主從の居城高館の終焉の賦でありました。この句は義経の北の方の乳人(メノト)として仕えてきた増尾十郎兼房が義経夫妻の最期に立ち会い、自らも高館に火を放って果てるという兼房の壮絶な姿を詠んだ句で、老齢の兼房が白髪をふり乱している姿を折からそこかしこに咲き乱れる卯の花の白に重ねたものでした。神学に一家言を持ち、「おくのほそ道」の旅だけでなく、「鹿島紀行」でも師芭蕉の旅のお伴をした曾良ではありましたが、彼の詩は芭蕉の批評に堪えるものは少なく、後世の識者もまたいわゆる蕉門の十哲にかぞえる存在とはなしがたかったようでした。
そのような曾良ではありますが、この句は芭蕉の「夏草や……」の句の次に据えるのにふさわしい作品として芭蕉が選択した訳で、秀逸句と申すべきものでありましょう。

BASHO [芭蕉像と紀行文]
中尊寺境内にある芭蕉像と紀行文
紀行文は「三代の栄耀…………哲時千歳のかたみとはなれり。五月雨の降りのこしてや光堂」となっている。
BASHO [平泉・毛越寺境内の句碑]
毛越寺(モウツウジ)は藤原氏2代基衡(モトヒラ)によって建立された寺と広大な庭園。寺は焼失して最近再建されているが広い池を配した庭園は見事。
この庭の一角に「夏草や兵どもが夢の跡」の英訳碑。
訳者は盛岡出身の農学者で英文学者の新渡辺稲造博士。
「The Summer Grass. 'Tis All That's Left Of Ancient   Warriors'Dream. Inazo Nitobe」


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