BASHO
写真と文:上野信好


「閑(しづ)かさや 岩にしみ入る 蝉の声」
 あまりにも有名なこの句は数々の話題を提供してきました。なかでも昭和のはじめ、斉 藤茂吉と小宮豊隆との間で争われたせみの種類についての論争は、数年間にわたって 書物や雑誌に論文の形で堂々と争ったということですから驚いてしまいます。
 挙句の果ては東北大学に7月のその頃に山寺あたりに出没する蝉の種類について鑑定 をまつことになり、にいにい蝉の豊隆があぶら蝉の茂吉説を制した・・・なんてこと になりました。しかし芭蕉が四囲の閑寂なさまを、蝉の鳴く声を持ち出して表現した 折角の名句に蝉の種類論争は本来そぐわない気がしてなりません。ひょっとしたら蝉 は鳴いていなかったかもしれない、閑寂な叙景を出すためわざと蝉を持ち出したかも しれないなどなど行きすぎた想像すらあり得ると思うからであります。また曾良の旅 日記から判るように7月13日午後2時半頃到着しすぐに山寺に登っているその時刻もま た、日付と同様に吟味する必要があるのかもしれません。



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「宝珠山立石寺の句碑」
「閑かさや 岩にしみいる 蝉の声」山形市山寺
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「立石寺・せみ塚」山形市山寺


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