お江戸のおもしろグッズ【1】
『伊万里にはイタリア料理がよく似合う』

文・絵 三輪映子
伊万里 一目見たときの印象は、なんだかやたらに色が使ってあるなあということだった。皿の縁の花びらのような曲線は、「輪花」と呼ばれるもの。直径二十センチあまり。中央の円の中には染付で水仙を描く。円の外側は三分割され、稚拙とも奔放ともいえる色絵で、梅の木、瑞雲、そのほかいろいろ。皿としてはちょっと深めの、ふくよかな形。十年ほど前、明日にも倒壊しそうな古道具屋で、埃の中からひっぱりだした。値段は四千円だったかな。下手もん、ではあるけれど、これだけの手仕事を、今どきこの値段で買えるとは。家に持ち帰って、参考書を調べる。ありました、ありました、この意匠の源流が。私の皿は、大正生まれか昭和初期生まれか知らないけれど、元禄時代に花咲いた伊万里は「染錦手」という様式の、遠い子孫。私はこの皿を、「伊万里風絵皿」と命名した。
 最近、この皿をよく使う。イタリア風ジャガイモのオムレツ。フライパンで焼いたのを丸ごと皿に移し、八等分に包丁目を入れる。さっそく、あつあつのところを一切れ、取り分ける。皿の絵が、八分の一だけ現れる。濃厚な色彩、稚拙奔放な絵柄。それを眺めながら、オムレツをほおばる。ジャガイモの野性味は卵の味でやわらげられ、チーズの香りは鼻を伝って脳天に達する。そこで、こってりした視覚とこってりした味覚とが渾然一体となる。おお、幸せ! 伊万里風絵皿には、イタリア料理がよく似合う。

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