お江戸のおもしろグッズ【2】
『扇子はしぐさのアクセサリー』

文・絵 三輪映子
扇子 よほど暑くても、歩いているときはそれほどでもないのに、建物の中に入ったり、電車の車両の中に落ち着いたとたん、汗がふきだす。まして、最近は健康的な冷房をしているところが多くなったから、瞬時に汗が引くということはない。そんなときには扇子。ハンドバッグからすっと取り出して、さらりと開いて、そよそよと風を起こす。その一連の動作を、流れるようにできたら素敵だな。
 冷房などなかった昔は、扇子は夏の必需品だったにちがいない。浮世絵を見てみると、枚挙にいとまがないほど扇子が登場する。歌麿の「夏衣裳当世美人」は、暑い外出から戻って、とるもとりあえず帯をほどいたところらしい。帯は足元の床に輪になって落ちている。彼女は輪の中にすっくと立って、左手で襟を少しゆるめながら、右手の扇子で風を送っている。扇子は粋な白無地だろうか。カナメのところを軽く握った手つきからして、こきざみな扇子の動きが見えるようだ。歌麿が描く美人ともなれば、どんなに暑くても、鼻先でバタバタあおるなど、するはずはない。
 扇子の歴史を覗いてみたら、平安時代の檜扇から現代の舞扇まで、扇子は涼をとるための実用品という以上に、しぐさを美しく見せるための小道具として、いろいろな場面で用いられてきたことがわかった。冷房が発達した今だからこそ、しぐさのアクセサリーとして、もう一度扇子を見直してみたい。

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