江戸のおもしろグッズ【10】
香りは心を飾るもの、香道具
 これまでの6回、気がつけば、どれも「使う」視点で書いてきました。で、今度は 角度を変え、「飾る」を考えたいと思います。伝統の工芸を作り続けている職人さん を訪ね、その心意気をうかがいながら、お江戸の美学をさぐります。そして、現代に お江戸をどう生かすか。自分流に遊んだり、ちょっぴり冒険も試みたい。
文・絵 三輪映子
イラスト かんざし
みごとな仕上りの「香道具」

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香道具 香道に用いる道具を見せていただく機会があった。その種類の多さや、それぞれが質の高い工芸品であることを知って、大変な世界があるものだと驚いた。道具の中でも肝心なのが、かおりを聞くための「聞香炉」と、聞香炉で香をくゆらすのに必要な「火道具」の七点セット。さらに、火道具を取り出しやすいように立てておくための「香筋立」がある。この火道具と香筋立を作っているのが広瀬一雄さん。素材はおもに銀。
「香道具を作る人が絶えていたらしいね。デパートの催事で香道の先生と知り合ったら、六角形の、こんなものを作ってくれないかって」と、両手で大きさを示した。六角形のこんなものとは、香筋立のこと。で、実物とか写真とか見せてもらって?「殆どないんですよ、手探りでやるしかなかった」。試行錯誤で作っていた最初の頃をいま振り返って、「いい仕事をしていたなって思う」そうだから、すごい。その広瀬さんも、「初心者向きの香道というのを二度ほど体験しましたけど、ちっとも当てられなかったですね」。
 香道のいろはに、三種香がある。三種類の香の小片を、一種類につき三つ、合計九つの包みを作る。その中から無作為に三つを取り、順番にかおりを聞く。一番目と三番目のかおりが同じで二番目が違うなら、その組み合わせは「孤峰の雪」という。三つのどれも違うかおりなら、「緑樹の林」。つまり香道とは、香りの当てっこを競う単純なゲームではなく、香りがかもしだすイマジネーションをも楽しむ、感性の遊び。二十一世紀は心の時代といわれる。暮らしにお香を取り入れて、感性を磨いておくのもいいな。


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