江戸のおもしろグッズ【8】東京都伝統工芸品指定 指物師 渡辺昇氏を訪ねて
江戸指物は引き算の美学
 これまでの6回、気がつけば、どれも「使う」視点で書いてきました。で、今度は 角度を変え、「飾る」を考えたいと思います。伝統の工芸を作り続けている職人さん を訪ね、その心意気をうかがいながら、お江戸の美学をさぐります。そして、現代に お江戸をどう生かすか。自分流に遊んだり、ちょっぴり冒険も試みたい。
文・絵 三輪映子
イラスト 鏡台
鏡台 拭き漆仕上げが美しい

指物師江戸指物なるものをはじめて見た頃は、古びた木造の家に住んでいたから、木で作ったものを見飽きていたかもしれない。江戸指物の直線的なデザインや、木目を見せた拭き漆仕上げを、古風なだけだと思った。しかし、時を隔てて二度三度見るうち、小春日が身にしみるように、よさがわかっててきた。たとえてみれば、化粧なら素顔、体型なら筋骨質。素顔でサマになる人は中身が上等であるように、江戸指物の魅力は材質のよさ仕事の確かさから、にじみ出るもの。日本には伝統的に、贅肉をそぎおとすことをよしとする、引き算の美学があった。江戸指物もその血脈のなかにある。台東区竜泉、樋口一葉の記念館があって、道を一本へだてれば吉原。建物が今様にかわっても、植木鉢の草花が家の前で押し合いへし合いしている情景は、やはり下町。江戸指物の渡辺昇さんは、先代からこの町に住む。「指物の技術のもとは、宮大工です。金属の釘は一切使いません。構造の基本は、“ほぞ”を組む、穴に棒を差し込んで留める。でも、この姿見、どこにもほぞが見えないでしょ」。それ、どういうこと?「ほぞは外側から見えない位置にある。これです」と、見本を見せてくださった。板の端を四十五度に削って、その部分にはほぞがつけてあった。板を二枚合わせて直角を作ると、ほぞは完全に隠れてしまう。「ほぞはノミでつける。一カ所でもし損じたらおしまい。慣れるまでに二三年はかかるよ」。奥の仕事場では、軽快な槌音をたてて、跡継ぎの彰さんが仕事をしていた。

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